「スローイノベーション」とは何なのか?VOL.1

Slow Innovation株式会社CEO野村恭彦さん× 自己組織Dev. 田原真人

 

震災後に株式会社フューチャーセッションズを立ち上げ、企業、行政、NPOのクロスセクターの関係性によりイノベーションを起こしていく活動を続けてきた野村恭彦さん(現:Slow Innovation株式会社 CEO)が、コンセプトをさらにアップデートして始めた「スローイノベーション」とは何なのか?お話をうかがってみました。

田原:野村さんが最近立ち上げられたスローイノベーション について伺ってみたいと思います。
なぜ今、スローイノベーションっていうものを今までの仕事からシフトして 立ち上げようと思ったのですか。

野村: そうですね。
2012年にフューチャーセッションズを立ち上げて7年経ち、 今年の10月1日にスロイノベーションを 立ち上げたというか、事業分割をしたんですね。
今までやっていたのは企業とノンプロフィットと、パブリック この3つのセクターを超えて 真ん中にファシリテートを据えて、全体最適で新しいイノベーション作っていこう っていうことで始めました。
3つのタイプの仕事、つまり企業の新規事業をやるんだけども、そのときに行政やNPOに入ってもらう。
あるいは、社会課題解決のために企業や行政と一緒にやる。
地域の問題を行政がリーダーシップをとって企業とNPOにも入ってもらう。
こういう仕事ずっとやってきて、 この3つがあること、そのバランスをとっていることが、我々の強みであるし、 最も重要なメッセージであります。
ということをずっと言い続けてきたんですが、今年の1月頃から「自分がこの先10年かけてだしたインパクトなんだろうか」とずっと考えていて、 市民社会を大きく強くしていくようなプラットフォーム作りが自分は7年間目指してきて。
そのためにクロスセクターとずっと思ってたんですが、 結論的には ビジネスの枠組みの中だけでは自分自身やりたいことは到達しないんじゃないかというところに来たんです。
良く言えばバランスよく両方やっているし、会社は毎年毎年を売上を高めながら、社員も増やしながら実現していて、誇りには思っているんですが。
じゃあ10年経ってこれがどこに到達するんだ?
会社が例えば3倍なったら何になるんだ? って考えた時に、僕らがやりたいことは本当のところはもっとノンプロフィット 活動の力を使って、私たちの会社がビジネスをいくら大きくしてもやっぱり足りないんじゃないかと。
もっと自分たちが考えていること、知見をより多くの人に急速に広めていくような、そういうスピード感を持たないと難しいんじゃないかっていうところが結論で、 じゃあNPO立ち上げようって最初は思ったんです。
NPOたちあげようって思った時に
「待てよ」と。
自分たちがなぜ株式会社でやってきたのかということを、またずっと考えたわけです。
株式会社は基本的には自分たちで決められる。
一番決めやすい組織ですよね。
公共性を高めた、あるいは社会性を高めた組織というのは、より合議制というのが強くなるので、 イノベーションという意味では自分たちが感じたもの、私たちが大切だと思ったことをすぐにやってみるということがすごく大事なんじゃないかなということで NPO にするというよりは、今までやってきた行政を中心にした地域からという部分だけを会社分割してここだけをやる。
それも事業成長を求めるのやめて、今回は本当に、これからの売り上げを伸ばす計画一切作らない。 っていうことを決めて、その代わり地域を広げていこうと。
それで、パートナーシップをどんどん作っていって、ノウハウを共有していって、 という考え方になるので、 渋谷をつなげる30人が地域行政と組んで、その地域のステークホルダー企業の方を20人、NPOからあるいは地域の方8人、行政の方2人で30人をつくって、 この30人がファシリテーション能力をお互い身につけて、お互いの良さを引き出し合いながら、結果的にその地域でなければできない、あるいはその地域にしかない社会課題設定をして、企業のリソースを使って NPO の行動力を使って、行政の政策形成能力を使って、今まではみんなできたらいいよねって思って終わっていたものを、セクター超えて協力し合うことで実現していくっていうことをやってきたんですけど、 この部分だけを切り取って、まずは各地域にもっともっと丁寧に作ってみたらどうだろうかと。
やっぱりコンサルティングやってると、売り上げを伸ばすために企業の仕事がどうしても多くなっていって、その中で余裕のある範囲で、例えば2割ぐらいで地域の仕事をやるってなってた部分を100%にしたら、一体我々はどこまでできるんだろうかと。
さらにこのやり方をもっともっと仲間 にスピーディーに広めることができたら、何ができるんだろうかと。 まあそんな風に考えるにいたり、じゃあ事業計画もなしにこっちだけやってみたらどうなるんだろうっかていう壮大な実験が基本的なスタンスですね。

田原:なるほど。
今2つすごく面白いなあと思ったことがあります。
まずは、「このスピードでは間に合わないんじゃないか」というところ。
会社の成長が3倍になったとしても、成熟した市民社会みたいになってくにはこのスピードじゃ間に合わないんじゃないかっていう、そのスピードの話をしながら始めたものがスローイノベーションっていうね。 ここがすごく面白いなあと。
もう一つは、渋谷の30人っていう、そのプロジェクトが野村さんに与えたインパクトっていうのが、多分大きかったんだなって。
それがもっと展開できたら、すごいインパクトが与えられるっていう実感があったから、それが一部だけじゃなくって、100%にしてみたいと思われたんじゃないかなっていうふうに思ったんですけど、渋谷の30人のインパクトってどんなものだったんですか。

野村:そうですね。
2016年から始めて、最初の年は10月から始めたんですが、翌年から6月から始めて年度末まで、30人が月に1回丸1日使って集まって、そこでお互いを知り合い、そしてお互いの良さを引き出しあい、チームを作って、今度は ファシリテーションをみんな学ぶんで、そのテーマに関するステークホルダーを地域から集めてってやっていくと、200人から300人の人が協力しあうというのが、1年できるんですね。
最初はこれをイノベーションの手法だと思っていたので、この期間に良いアウトプットを出そうと一所懸命後押ししてたんですけれども、実際起きたことはその期間中に起きたプログラムの中に起きたプロジェクトよりも、もっと面白いことが 翌年翌々年に起きるって言うことを観察したんですよ。
何が起きてるのかなと思ったら、この30人という関係が継続しているということにとてつもない意味があるんだってことがわかったんです。
期間中って、みんなである意味プロトタイピングをしていくわけです。
これは経験としては凄くいいわけです。
みんな集中してそれに取り組むんで。
そして、各テーマごとにグループできますけども、そのチームだけではなくて、すべてのテーマを30人みんなで応援するっていう関係性を作っていくんです。
この30人の中のリソースが、その中でバーッと可視化されて、そのプログラムが 終わったあともお互いリソースを使いあう関係性ができるんです。
どういうふうに使ってあげるとその人活きるのかっていうのがお互いわかってる状態で、そのままみんな仕事を続けるんですよね。
そうすると、リアルな仕事の中で、例えば東急不動産さんが新しい開発をするときに、「こういうこと一緒にできないかな」って真っ先に声をかける相手になって、場合によってはまだプレスリリースも出てないような状態からみんな話を始めるんです。
なぜなら、みんなすごい信頼しているから、この人たちだったら大丈夫っていう関係があるから。
僕らはこの関係を「正当化された友達」って呼ぶようになりました。
ただの友達だと一緒に仕事するのはちょっとはばかられますけど、この30人の関係は、みんな会社を背負って親友になるというそういう関係です。
なおかつ会社からも渋谷区が一緒にやってる30人のプロジェクトだから、みんなこの案件の中で失礼なことするわけないよねという信頼関係が出来てるわけです。
そうなると今までだったら自分たちの社内で考えて交渉していくというところが、最初からこの30人使って極端な話、会社に提案する前に30人と相談してるみたいなですね。
だから会社に提案する時は、もう行政もこう言ってますとか、NPOでこういうところと一緒にやれますとか、あるいは同業他社と一緒にこういうことできますみたいなことが次々起きていくような。
面白いのが 例えばある会社のCSR部門の女性が去年参加していて、30人の中に同じアパレル業界のライバル会社がたくさん入ってたんですが、その人たちが繋がって一緒になってアパレルの廃棄問題を解決しようみたいなことを立ち上げたりですね。
だから、僕らが感じていたのは、30人の関係っていうのを1年じゃなくて続けていく、この厚みのあるものというのが、とてつもないパワーだなっていうことです。
単に30人がつながってるいるのではなくて、30の組織が繋がっていくそういうものを実感して、こういう状態になると、何でもできるような気持ちになるなと思ったんです。
ホールシステムを実感するというか。
プログラムはある意味奇跡的に生まれたんじゃないかなと思うんですけど、こういう場を、僕ら今「革新的な共同の場」と呼んでいます。
つまりプロジェクトじゃないです。
プログラムなんです。
ゴールが決まっててこの ゴールを達成するためにいろんな組織が集められてそのゴールに向かってやるっていうのはやろうと思えばできると思うんですけれども、このプログラムはゴール設定をしてない状態で集まるんですよね。
そこでみんなで何したいのかとか、そういうところから始めるんで、ある意味ゴールそのものが生まれてきて、そういう関係性の強さすごく感じました。
というのがイノベーションという文脈。
もう一つシンプルに、街の中に行くと、いろいろなところで、知り合いにいっぱい会うようになって、今まで渋谷の中になかった感覚をみんなで味わってるんですよね。
こういう感覚っていうのはいわゆるピュアな仕事でもないし、友達でもないし、このサードプレイス的な関係性っていうのは、本当にピュアにいうと幸せだなと思いました。
こういうものを他の地域にも作っていくと、自分自身の人生が豊かになるっていう実感があります。
このプロジェクトは、イノベーション起こすっていう目的で始めたはずなんだけども、自分自身がトランスフォームしてしまいました。
一つ一つ生まれてくるアウトプットよりも、こういう正当化された友達関係でサードプレイスをつくっていくこと、それを醸成するコミュニティに魅了されてしまった感じです。

田原:なるほど。
ファシリテーター自身がそこのプロセスからすごく学んでいるから、学習にそのコミュニティが巻き込まれて、コミュニティの学習も促進されていくということだとすると、野村さんがトランスフォームしてしまうぐらい、コミュニティの学習が進んでいたということでもあるわけですよねきっと。

野村:そうですね。
全然違うセクターの人が5人くらい集まると、お互い 「あなた何したいの?」と話すじゃないですか。
そうすると一旦みんな、自分の会社を忘れて、自分事で課題を話し合うわけですよね。
そうするとみんなの共通認識ができるんですけど、そこで僕が一番気づいたのはこの状態は実は面白くない課題であると。
つまりみんなの”&”がとられたピュアな課題が出てくるんですね。
これをどうやって”or”に 広げていくかが僕らの仕事。
この課題設定って、せっかく面白い5人が集まったのに、この5人じゃなくても出てくる課題設定かもよ、と。
「本当にあなたの会社がこれをやりたい」と思っているのはどういうこと?と。
そうやって自分事で社会課題を捉えて、 今度はみんなの会社事で課題設定をもう一回広げ直して。

田原:広げていくんですね枠を。

野村:そうですね。”or”にしていかないと、その会社にとってのメリットがすごい小さいと会社のリソースを使い切れないんで。
だから皆さんに、「もうちょっとエゴ出してください。」「いいんですか?」みたいな感じで伝え、だんだんCSV (Creating Shared Value の略称。「共通価値の創造」)の本質がわかってくる。
CSVの社会価値部分の軸をみんなで共有して、そこからそれぞれが会社にとっての経済価値という軸をもう1回作り直す。
そうすると各社にとってCSVで、同じ社会価値の軸があるからみんなでできるって状態でつくっていくという風に動いてます。

 

スローイノベーション」とは何なのか?VOL.2

 

 

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