自己組織化型プロジェクトの進め方「むすびサイクル」とは? Vol.3

木戸伸幸さんインタビュー

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むすびサイクルを進めるのが難しいケースは?

伊原
私はプロジェクトを進めていくうえで、途中で熱量が下がってしまったり、自分だけが頑張っているような感覚に陥って消耗してしまった経験もあり、「何が足りていなかったのだろう?」という問いを抱えていました。そんな中、ティール組織について学ぶhome’s vi主催の講座「ティール組織ラボ深化編」でむすびサイクルを知り、ここに大切なヒントがあるように感じて、どうしてもやってみたくなって地域のコミュニティのメンバーと実験的に試してみたのですが、それぞれの描いた未来像、シナリオが、本当にそれぞれ過ぎて、一緒にやっていく部分が見えづらかったという経験があります。
むすびサイクルを進めていく上で、難しいと感じるところはありますか?
木戸
プロジェクトの始まり方って、「何か一緒にやりたいアイディアがあって始まる場合」「このメンバーで何かやりたいよね?」という感じで集まって話し合う中でアイディアが生まれて活動が深化していく二つのパターンがあります。どちらのパターンも具体的なWhat(Doing)が見えてくると「未来像の想像」や「シナリオづくり」もよりパワフルに機能するイメージがあるんですが、逆にWhat(Doing)やWhen(いつやるのか)が曖昧なままだと、なかなか難しいと感じますね。特に後者の場合、その難しさが発生しやすいのです。
伊原
私たちは「このメンバーで何かやりたいね」からスタートした中で、「これかもしれない!」という確信を感じるようなWhat(Doing)やWhen(いつやるのか)がなかなか見えてこない難しさがありました。
木戸
初めからWhat(Doing)やWhen(いつやるのか)がなくても、目的探求をしていく中で、「もしかしたらこれかもしれないね!」みたいなものが見つかる瞬間が時にはあって、それでプロジェクトがドライブすることがよくあります。そこが見つかると、そのあとの「未来像の想像」、「シナリオ」そして、「実施(本番)」のフェーズがより豊かに進んでいくな〜と感じています。
ところが、お互いの思いに気を使いあってWhat(Doing)やWhen(いつやるのか)が曖昧だと、その後のプロセスが進めづらくなります。ティール組織でいうとグリーンの罠にハマり始めている状態です。

僕がむすびサイクルで社員研修に関わっていたときは、メンバーの温度感はある組織でしたが、とはいえ集められたメンバーでした。ですが「3ヶ月後の社員研修を1日でやる。」というWhat(Doing)がはっきりと決まっていました。 さらに、例えば年始の研修の場合、「いいスタートを切れるように」とか「いい振り返りができるように」など、おおよそのテーマ感は決まっていたので、そこに向かってやっていける感じでしたね。

例えば、「社長の誕生日会をむすびサイクルでやろう」となった時に誕生日会というある程度の枠組みができるので、その中で「こんな誕生日会なんじゃないか」っていうようなことが降ってきやすいんですが、うちの会社でむすびサイクルで何かやってみよう、みたいな場合は、ある程度What(Doing)が見えてきてから未来像、シナリオと移っていく方が良いですね。その時にお互いを気遣って曖昧なWhatで進めるより、Whatを尖らせて、もしそこに想いが込められないメンバーがいる場合はチームを再編成した方が良いパターンもよくあります。
伊原
なるほど「このメンバーで何かやりたいね!」からスタートした私たちが、途中進めるのが難しくなってしまった理由が見えてきました。お互いに気を使って曖昧なWhatで進めようとしていたところもあったと思います。
木戸
「このメンバーでやりたい」っていうのは決まってるけどWhat(Doing)が決まってない時は、このメンバーである理由がより明確になって集まっていないと難しいと感じますね。

このメンバーでやる理由がしっかりしていると、「前提の共有」からの流れがすごくスムーズにいくと思います。「目的探求」も、この場にいる理由が明確であると、ブレストしたり、OST(*)とか、プロアクションカフェ(*)などで、たくさんアイディアを出しながら、「一番学べて次に繋がりそうなプロトタイプとしての第一歩は何か?」を見つけていきやすいのではないかと思います。
伊原
むすびサイクルを始めるとき、「具体的なWhat(Doing)がある」、あるいは「このメンバーでやる理由が明確にある」のどちらかがあると進めやすそうですね。
木戸
もう一つ、企業でやる場合、時間のハードルがあるかもしれません。3回程度の会合を毎回3〜5時間かけてやるんですね。僕は2週間〜3週間に一度3時間でやっていました。
その時間をとることが難しい場合は、違う方法をご提案することもあるかもしれません。
伊原
企業研修以外では、どんなケースでむすびサイクルを使っていたのですか?
木戸
むすびサイクルの理論や原則は、各種プロジェクトの大前提のような気がしています。 うまくいかないプロジェクトをむすびサイクルのメガネをかけて見てみると、「前提共有が全然できていないからだな」とか「そこで想いの偏りが生まれちゃってるから、メンバーが提案しづらいんだな」とか、いろいろ見えてくるんですね。

ですので、むすびサイクルという名称を外に出さないケースでも、そのステップとか大切な要素は、いろいろな場面で応用しています。無意識レベルで使っているところもあると感じます。
例えば、仕事探しをしている方向けのファシリテーションプログラムを設計したときも、むすびサイクルを意識していましたね。

想像を超えた結果につながっていくことも醍醐味のひとつ

伊原
どんな人、どんなチームにむすびサイクルをオススメしたいですか?
木戸
そうですね。「現場で働く人」そして、「リーダー的な役割の人」にもオススメしたいですね。

まず、現場で働く人には、「会社の中で働くことにあきらめて欲しくない」という想いがあります。現場に働く人にとっては、既にやることは決まっているとか、自分が考えるのは役割ではないというケースも多いのではないかと思います。

「仕事を楽しめていない」 「何のためにやるのかわからない」 「どうせ言っても変わらない」 と感じていることも十分ありえると思うんです。
自分たちでも変わっていく、変えていけるんだというふうに思うきっかけとして、むすびサイクルを使ってもらえたらいいなと思います。

例えば権限委譲で、権限だけもらっても正解にたどりつくのは難しいじゃないですか。 そのときに、自分一人だけで考えずに、メンバーと一緒に目的を探求したり、行動し、振り返りをしながら、もっともっと自分を発揮できるようなプロジェクトの進め方を体験する機会として知ってもらえたら嬉しいし、現場で働く人の役に立てるのではないかなと思います。

これって、コインの裏表みたいなものですが、経営者・リーダーにもオススメです。

組織における問題・課題が、最終的には上に集約されていく組織構造の中で、経営者だけで考え解決していける問題と、チームの力を使い、学びながら解決していく方が良い問題とがあると思います。
恐らく経営者的には、「グリーン組織的に仲良くやるというところをさらに一歩進めてティール的な組織はどう作るの?」という方が先にくると思うんですけど、組織を変えていくって本当に長い期間がかかることで、大変なことだと思います。

そんなときに、 「社員研修だけはむすびサイクルでメンバーに任せてみよう」とか、 「採用を任せてみよう」、 「社員旅行を任せよう」 「商品開発のプロジェクトをまずは1回任せてみよう」とか、 プロジェクトベースで検討できるので、どんな企業でも試しやすいのではないかと思います。
そういう風に考えると、全ての人にオススメできそうです!
伊原
最後に、むすびサイクルでプロジェクトをやってみたい方にメッセージを頂けますか?
木戸
むすびサイクルのような方法でプロジェクトをやると、自分たちの思いもよらない結果とか、想像を超えた結果に繋がっていくことがよくあります。そこが自己組織化型プロジェクトの面白いところであり、醍醐味のひとつなのかなと思います。
職場やプロジェクトでそんなことが当たり前になっていくっていうような21世紀にしたいと思っています。 ぜひ経験してみて頂ければと思います。
伊原
木戸さん、ありがとうございました。
*OST(オープンスペーステクノロジー) 関係者が一堂に会して話し合うホールシステム・アプローチの代表的な手法。テーマに沿って、参加者自らが解決したい問題や議論したい課題を提示、進行の段取りも自主的に決めるなど、個人の主体性を重視することで参加者のコミットメントを最大限に引き出すのが特徴。
*プロアクションカフェ ホールシステム・アプローチの会話手法。カフェにいるようなリラックスした雰囲気のなかで、プロジェクトを前進させたい人(コーラー (1) =提案者、プロジェクトを提案する人)と、そのプロジェクトをサポートしたい人(サポーター (2) =支援者)が相互に影響しあい、プロジェクトを前へ進めていく。

 

この記事を書いた人
伊原淳子(いはらあつこ) 自己組織development運営メンバー。茨城県在住。銀行勤務、モンテッソーリ教室講師を経て、2019年に、学び・組織・社会のパラダイムシフトを目指して活動している集合体「トオラス」に出会い、「自己組織化」についての学びを続けながら、地域のコミュニテイづくりも。2020年より手放す経営ラボラトリー研究員。「お互いのニーズやパーパスに耳をすませたとき、絶妙でより面白い未来像が現れる」そんな場作りを通して、一人ひとりが本来持つ力を解き放ち、共に創ることを喜び合えたら嬉しい。

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