自己組織化している組織じゃないとブランディングできないVOL.02

フローレンス副理事 岡本佳美さん × 自己組織Dev. 田原真人
ブランド経営のコンサルティングを行う会社を経営する一方で、認定NPO法人フローレンスに立ち上げから関わり、副代表や理事として事業型NPOのブランド戦略に関わってきた岡本佳美さんは、「今は、自己組織化している組織じゃないとブランディングできない」と言い切る。その真意はどこにあるのか、うかがってみました。

「ブランド」というのはどこにあって原材料は一体何なのか?

岡本
最初に結論を言ってしまうと、ブランドはもともと中央がコントロールするものだったから、ブランドは中央が持っていたんですよね。例えばロゴだったりとか。
だから、どこに行っても金太郎飴みたいに同じようなものとして届くようにするにはどうするかというマネージメントが重要だったんだけど、どうもそうじゃないなということに気づいていったんです。
ブランドっていうのはどこにあるかって言うと、ブランドと接した人ですよね。ブランドと接した人がいっぱいいる。接した人の頭の中にあるんだなっていうことに気が付いていったんですね。
田原
すごい転換ですねそこは。
岡本
根本的なドラスティックな違いで、ブランドというのは、ブランドの側が持っていて、億単位のお金をかけてコントロールするものではなくて、一人ひとりブランドと接したときに、頭の中に残るものなんだなって気が付いていったんです。
ということはすなわちブランドそのものが本質的に分散的なものだってことに気が付くわけです。それで、一人ひとりの脳内に生成されるブランドの原材料は何かと考えると、それは体験なんですよね。
フローレンスっていう見たことも聞いたこともないもの、そこに接したときにその人の体験がどんな体験だったか、その時の感情がどういう感情だったか、その体験と感情がこの人の脳内にちりのように積もっていって、それが結果的にブランドと呼ばれるものになるのであって、そもそもブランドというのは体験なんだなということに気がついたんです。
そうすると、今まで予算があれば出来た事っていうのはチームが小さい場合には、絶対にやらないほうがいいんだなということにも気がつきました。

例えば、組織に見合った発信をしていかないと、発信の受け手がその組織を知るという体験自体はいいけれど、知ってホームページを見に来た時に“検索してもなかなか出てこない”という体験をしてしまう可能性もありますよね。
“イライラする”という感情の体験。これもブランドの原材料だし、例えば使いたいと思ったり関心を持ったりして問合せをしても、そこから返信までのタイムラグがどれくらいあったか。これも体験だし、感情なのでそういう一つ一つの体験をデザインしていくことが最も効率が良い。
お金をかけて認知を広げていくっていうのは本当にどうでもいいということになんだなということに痛い思いをして気づていったプロセスっていうのが私にとってはものすごく大きかったんですよね。
田原
いや~まさに今うちのチームで起こっていることだなあと思いました。
うちのチームがまさにその小さいチームで僕が広げてしまう性質があるんですよね。
そうすると接点接点がどうしても薄くなってしまって、サポートが十分じゃなくなるわけですね。人材が足りないのに前線が広がっちゃうから。
そうするとそこでなんかあんまり十分にサポートしてくれないみたいな体験がおこって、悪循環が起こりやすいっていう課題が去年は結構出ていました。
僕の発信に興味を持って活動に参加してくれた方が、不十分のサポートしかされないという体験をしてしまうので、むしろブランドを下げてしまうことが起こってしまっていたな~と、聴きながら ああそうだな、そうだよな~思っていました。

やはり、体験のクオリティを高めていくことが大事なのでしょうか。

私たちが作りたい関係性っていうのはサービスの提供者と消費者ではない

岡本
今の話には、二つぐらいポイントがあるなと思っているんですが、そもそも、サポーティブな関係が重要なのかということもあって、消費者を作ってしまうと、サービスの提供者と消費者という、これも二項対立なわけですよね。だから育たないわけ、いまいち。
だからフローレンスでは「私たちが作りたい関係性っていうのはサービスの提供者と消費者ではない」ということを定義して、まずチームが合意したことがすごく大きかったですね。
その合意を生意気にも発信するっていうことをしたわけです。
「私たちはあなた達をお客さんだと思っていない。」と。

私たちの最初の事業は「病児保育」でした。
働いているご家庭で普段は保育園で預かってもらえるけれど、熱とか出しちゃうと保育園では当然預かってもらえない。
お父さんお母さんは子どもを休ませて、自分で看病したいのは当然だけれども、状況によってはそれが許されない場合がありますよね。

そういうときに仕事か子どもかという二項対立で悩むんじゃなくて、両方満足させられるソリューションとしてフローレンスを立ち上げたわけです。だから、困ってる人を助けするサービスであることは間違いないんですよ。にもかかわらず、私たちは、単純にあなたたちを助たいわけではない、って言ってしまうというね。 そうではなくて、「社会を変えたいんだ」ということを言うわけですよ。 今必要だから私たちはこのサービスをするけれども、この働きにくさを一緒に変えていく仲間にあなた達にもなって欲しいんだっていう発信をして、最初から最後までずっと“クルー”という言い方をしていました。
だからまず「チームを定義する」ということと、「発信をする」ということが大事だったんです。
“クルー”という定義を発明できたことによって何が起こったと言うと、「その人たちに役割を持ってもらおう」という考えに発展していったわけです。

我々が初期的に病児保育のサービスを提供できる区というのは、中央区と江東区というたった二区だけでした。
だから、消費者として捉えてしまうと、その二区にお住まいの皆さんにしかサービスを提供できないわけで、問い合わせをいただいても、それ以上の関係性を築くことはできなく、「私たちが育つまでお待ちください。」というコミュニケーションしかできないんです。
だけど「クルー」という定義をした瞬間に、つまり「社会を変える乗組員ですよね」という定義をした瞬間に、「ごめんなさい。私達はまだ生まれたてで、チームも小さいので、この二区にしかサービスを提供できないです。しかし、私たちがやりたいのはこういうビジョンだから、それに対して乗組員として一緒に課題解決を手伝ってくれませんか。」という声をかけることができるようになったんです。
それでプロボノじゃないですけど、「私たちは今こういうサポートが欲しい。」ということを発信することで、本当はサービスの利用者として問い合わせをしてきてくれた人が、仕事を手伝ってくれ、チームになっていったんです。
それで何がおこったかというと、まだわずか20人30人しかサービスを提供できない小さなチームにもかかわらず、200人のいわゆるウェイティングリストというのが、いらいら待っている人たちではなくて、「そうですよね、この働き方の難しさって変えていきたいですよね。」みたいな感じで、ビジョンを共有するチームとして、「そうだそうだがんばろう!」「まだ組織は小さいけど、そういう社会にしていきたいよね!」という、気持ちを共感するチームが瞬間的にできて、その中で一部スキルと時間がマッチする人がプロボノとして貢献してもらうみたいな感じになっていったんです。

そういうふうにして、ただ問い合わせをしてきてくれた人、サービスを利用したくて問い合わせをしてきた人たちに対して「何に共感してもらうのか」という定義をし、どういう体験を我々は届けられるのかっていう体験のリデザインをすることによって、チームが作られていきました。

そうして初期的に200人のフローレンスの応援団みたいなものが作れたことによってその人達が勝手に拡散してくれるようになったんです。
私たちのチームが小さいからこそ届けている体験は、そういう意味では、サービスとして考えたら最悪なんですよ。
だけどその彼らの体験が良いと、勝手に拡散してくれるって言うことが起こるというのは、すごく私的には目から鱗が落ちるような体験で、なるほど、「強いブランドってこうやって作ればいいんだな」という風に私自身が体験していったプロセスだったんですよね。
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