自己組織化している組織じゃないとブランディングできないVOL.04

フローレンス副理事 岡本佳美さん × 自己組織Dev. 田原真人
ブランド経営のコンサルティングを行う会社を経営する一方で、認定NPO法人フローレンスに立ち上げから関わり、副代表や理事として事業型NPOのブランド戦略に関わってきた岡本佳美さんは、「今は、自己組織化している組織じゃないとブランディングできない」と言い切る。その真意はどこにあるのか、うかがってみました。

自分たちがこの社会に存在する理由。それを自分たちが研ぎ澄ましきる

岡本
最初田原さんがおっしゃった初期的な組織の目的っていうのがあって、その目的に共感している人が集まってという、ここができないと、その先に広げることは絶対にできないんですよ。
だからこそ、いわゆる従来型のものというところも十分すぎるくらいやらないと、その先はできないなというのが実感としてあります。

もともとビジネスセクターに対して、億の単位の予算で仕事してきたときは企業理念とかそういうものって、完全に額縁の中に入っているもので使っている組織なんて見たことなかったんですよ。
だけど、フローレンスで初めてこれは使えるなと思ったんですよね。
というかむしろそれしか使えるアセットがなかった。だからそこを磨ききったという感じなんですよね。

それは何かっていうと、自分たちがこの社会に存在する理由
それを自分たちが研ぎ澄ましきるっていうこと。

それをいわゆる組織のビジョンとして確たるものとしてたてる。
そしてこのビジョンを実現するために私たちが何をするのかっていうミッションを明確にする。
これに共感した人がチームに集まるという、ここを私は組織のインナーマッスルと言っているんですが、そのインナーマッスルはやっぱり不可欠で従来的にはそれさえもやっていなかったっていうのが現実だと思いますね。
理念は額縁の中に入っていて社名が変わっても全然変わんないような理念ばっかりじゃないですか。それはないも同然だしある意味がないですよね。その組織である理由が説明できないわけだから。
入る人も理念に共感して入社する人なんてほとんどいないんですね。
例えば給料とか、そういう条件で入ってくるのであって、条件はイマイチだけど理念に共感したので来ましたみたいな人って、基本的には今までいなかったと思うんですよ。

少なくてもフローレンスがデビューした15年前は、理念やビジョンをそこまで使い倒しているビジネスセクターはなかったと思う。今でこそサイボウズの青野さんだとか、理念を中心とした企業運営であり、理念を中心とした採用であり、というのをやってらっしゃるビジネスセクターも出てきましたけど、まだまだマイノリティだと思うから、そこはやりきらなければいけない段階かなという気もしますね。
田原
この間ダイヤモンドメディアの武井さんと話す機会があったんですが、ダイヤモンドメディアは理念を作っていないんですよ。理念がないっていうのが一つの特徴なんですよね。
でもそこはすごく難しさもあるという話をしていました。会社の理念を持たない彼らは自然の摂理を理念の代わりに置いてるんだけど、揉めた時に人と問題がくっつきやすいそうです。

理念があると、その理念に照らしてこの問題がどうなってるという話になるじゃないですか。
うちのチームもそうなりやすいんですけど、なんとなく自然摂理くらいだと、自然の摂理をわかっている人とわかっていない人という感じになっちゃう。

うちの組織で、たとえば僕がこれは自然の摂理だと思って意思決定して動いているとします。でも、僕が僕のエゴで意志決定しているのと、自然の摂理だと思って意思決定しているのとは、外から区別がつきにくい。

日常的に、物事がうまくいっている部分とうまくいっていない部分が共存しているので、みんなそれなりに我慢しながら頑張ってやっているのですが、誰かが、我慢の限界だと思って、その人から見えている問題を、自分と切離して解決しようと思う瞬間というのが定期的にあらわれるんですよね。
「やってられないボタン」を押すというか。
そのときにその課題というものと、課題というものに一番関わっている人とが結びついて、その人に責任が押しつけられるという風にどうしてもなりやすい。
そういう状況で、やっぱり理念というものがあると、一旦、課題と人を切り離すという効果があるなあという話をしていました。

チームにおいて、関係性とかいわゆる分断で内部崩壊してしまうということが、結構起こったりします。「目的のために一緒にやってるよね」というのが、いつの間にか「その人のためにやっている。」ということにすり替わってしまうと、うまくいかなかったときの責任もその人に向いてくるという構造が生まれるから、やっぱり、真ん中に理念があってそれをみんなで合意して一緒にやっているという仕組みは、本当に大事だなぁと、最近は体験的に感じています。

自分たちの理念、存在意義というのを拡張し、同時にやらないことも決めた。

岡本
理念も変わっていいというのが前提だと思ってるんですよ。
私は理念というのは存在意義だと思ってるんですね。存在していい理由。組織というのは人が人為的に作ったもので自然に生まれたものじゃないので、終わり方って結構大事だと思うんですよね。
なくてもいいものを、存在させるためにやる活動って、無意味じゃないですか。
田原
本末転倒ですよね。
岡本
そうそう。だから株式会社ってそこがすごく難しい。全ての人にとってハッピーな終わり方というのがあまりデザインされてないなぁと感じてます。 例えば、スタートアップの事業譲渡などは、創業者にとってはキャピタルゲインもあってめちゃくちゃいいけど、そこで一緒にチームとして働いていた人にとっては、買われる人みたいになっちゃうから全ての人がハッピーなのかというとそうでもなかったりとか。
だからこそ存在理由、なぜ私たちがこの世の中にいるのかっていうことを説明できればいいだけだと思うんですね。
それは他者に説明できるのではなくて、自分で自分に説明できればいいんだと思う。
その時に、納得感のある説明をチーム全員が出来るようにするために、理念が機能してくれるんだろうと思っています。

フローレンスもそうなんですけど、やっぱり社会が変わるし、あるいはチームも大きくなってくるので、創業時の理念というのを10年目にリニューアルしたんですね。
自分たちの理念、存在意義というのを拡張しました。拡張と同時に何をしたかというと必然的にやらないことも決めました。
最初これで始まったけど拡張してこのぐらいにはなったけど、ここにあるものはやらないよねっていうことを決める。それはすごく重要なフェーズだったんですよ。
田原
やらないところを決めるというところをもうちょっと教えてもらいたいのですが。
岡本
具体的な例でいうと、フローレンスというのは最初「仕事と育児の両立があたりまえの社会に」ということで始まった。だから最初は病児保育というものをやっていた。想定できていたのはこの働き方(仕事と育児の両立)を当たり前にするためには働き方を変えなきゃいけないっていうことと、そもそも保育園に預けられないという待機児童問題は全部やらないといけないということはわかっていたんですよね。

だから最初は病児保育で始めて、働き方改革のコンサルと待機児童問題をやる、ということまではデザインされていた。 あるいは仕事と育児の両立といったときに、医療的ケア児っていう言葉があるんですけど、知的には障がいがないけれども身体的に障がいがあって、しかも医療的なケアが必要だと、自分の知能にあった教育を受けられる機会がないみたいなことだったりとか、医療的ケア児だとそもそも保育園に入れないだとか。 両立どころかお母さんが仕事辞めなきゃいけないなど、私たちが見えていなかったいろんな問題が見えてきました。

一方で教育っぽいこともわかってくる。自己肯定感みたいなこととか、子どもと親にまつわる様々な問題が見えてきたときに、自分たちの強みがどこなのかということを言語化できる状態になるということが重要になってきました。自分たちの強みを最大限に生かそうとした場合にあまたある今まで見えてなかった様々な問題のうち、何を自分たちがやるべきで、何を他のプレーヤーに任せた方がいいのかということが問われてきたんです。
世の中全体を一つの生き物とした場合、自分たちがどの機能になった方が全体最適で、どの機能を他の人に任せた方がいいんだろうということを決めることが重要だったんですね。

私たちは親子とういことを重視したのと、政策に向けてアプローチしていくのが得意なので、制度政策を変えていく余地があるもの、制度政策に訴えていった方が社会を変える距離が短いものにしようと決めたんです。

障がい児というのは福祉の色合いが強いし、児童虐待もある程度政策でアプローチできることがあるんですね。 一方で自己肯定感みたいな教育っぽいことは、別に政策じゃなくても結構できることがいっぱいあるから、教育っぽいことはやらないとか、親子の問題はやるけれど、親だけの問題はやらないとか、そうそういうことを決めていったというプロセスがありましたね。
田原
なるほど。僕が今受け取っているものを一旦整理すると、最初ブランディングの話から始まりました。
いろんな制約の中から、ブランディングは体験した相手の頭の中に蓄積していくものという再定義があり、そのためには理念を中心とした組織が必要。自ら理念を体現していく組織やチームができた時に、その体験が外に広がっていくということも起こっている。組織の外側にも広がっていくことで今までになかったソリューションが生まれることもある。

その理念を研ぎ澄ましてくというのは自分たちが何者であるかっていうことを研ぎ澄ましてことではあるから、組織の成長とともにいろんな選択肢の中でどこにフォーカスしていくかっていうときも、自分たちが何者であるかということに照らしながら、自分達の強みはこれだから、こっちの方にフォーカスしていくということで理念のリニューアルがしやすくなったということ。

多分それがブランディングという範囲を超えた、組織がどうやって行くかっていう話とも繋がっているのだと思うんです。そして、組織が進んでいく方向が明確になって、明確だから他の人がどう関わればいいかというのも分かりやすくて、色々な形で助けも求めやすいし、動きが進んでいけるのかなと思って聴いていました。
岡本
今言ってくださった、ブランディングを超えているっていう話、まさにだなって思います。
よくある誤解の一つ、「ブランディングって何なのか」というのが人によって大分違うわけですよね。

私は、経営戦略と両輪で動くものという風に定義しているんです。だから別にブランド戦略が牽引するわけじゃないんですよ。
でも、一輪車で経営戦略だけで走るよりも、ブランド戦略と両輪でいった方が早く走れると定義していて、だから、いわゆる経営の言葉で語るとすれば、経営戦略があって事業戦略があって、その下にマーケティング戦略があって、コミュニケーション戦略があるぐらい単純かして、4階層ぐらいあるわけじゃないですか。
今までブランディングっていうとコミュニケーション戦略の中のクリエイティブだとして捉えられている。でもそれは一部であって、経営戦略からコミュニケーション戦略まで全部していかないとブランディングはできないというのが私の定義でなんですよ。

だから、一部門が頑張ることじゃなくて全社的に一気通貫してちょっとずつ機能を持っていく、様々な戦略レイヤーに対してブランドマネージメントが持っている機能というのがちょっとずつちょっとずつ全体にまぶさっている。

このようにブランドマネージメントが機能することによって、組織の体幹になっていって、組織の理念も強まるし、働く人一人一人の個人的なミッション、組織のミッションを紐づけるということに対して、センサーがいろいろなところで機能できるようになる。

今おっしゃってくださった、もはや全体ですよね、という話はまさにそうだと思っていて、そうしないと、強いブランドにはならないし、そうしないと、良い体験をそこらじゅうで、生み出すということができない。
逆に言うとそれができれば、自律分散型の組織になって、自律分散型の組織だから自律分散型に良い体験を届けて、自律分散的にいろいろな人の脳みその中に良い強いブランドが育まれていく。そういう構造なのかなと思います。
田原
なるほどありがとうございます。僕の中ではだいぶ明確になりました。
ちょっとチェックアウト的に話してどうだったか一言ずつ話して終わりますか。
田原
すごく本質的な話だなと思いました。
入り口がブランディングだったり、違うところだったりしても、突き詰めていくと、たどり着く先みたいな話を今日岡本さんから聴いたなあ。
そんな印象が今残っています。ありがとうございます。
岡本
そうですね。普段私が一方的に喋っても90分ぐらいかかっちゃうんですよ。いわゆるブランドマネージメントってこんな感じですみたいな話をすると。
今日は、田原さんに質問していただいたことに対してキーとなるストーリーをお伝えしていったら、結果的に意外とちゃんといろいろ伝えられたんじゃないかっていう感触が残っています。
これはわりと新しい体験だったなと思って、そのこと自体が面白かったです。
ありがとうございました。
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