自己組織化を具体的ストーリーで探求してみよう! 〜コレクティブストーリーハーベスティング〜 vol.1-1

ストーリーテラー 嘉村賢州さん 田原真人さん

抽象論で語られることが多い「自己組織化」について、具体的なストーリーから学びあったらとても豊かになるのではないか。そのプロセスを繰り返していくことで、自己組織化についての解像度をあげていこう!という企画です。

コレクティブストーリーハーベスティング(*)という手法を使って、まずは実験的に開催してみよう!ということで、第1回目は、2020年4月1日に開催。

嘉村賢州さんと、田原真人さんにご自身が体験した自己組織化のストーリーを語っていただき、10人の参加者が観点を持って聞き、その後気づきを共有いたしました。ここでは、お二人が語っていただいたストーリーを少しずつご紹介させていただきます。

*コレクティブストーリーハーベスティングとは? 話し手のストーリーを、それぞれ異なる観点から複数名で聞き、フィードバックと対話により集合知的に学びを深めていくファシリテーションの手法です。

グラフィックレコーディングは関美穂子さんが描いてくれました。

 

(最初にストーリを語ってくれたのは、嘉村賢州さんです)

自己組織化的な関わり方をしているものは3種類

普段の関わりの中で、自己組織化的な関わりをしているものは3種類あるなと思っています。

一つは街づくり。

僕は京都市未来まちづくり100人委員会っていうのをやっていたのですが、特に議題も何も決まってない中、月に一度、京都市民が140人ぐらい集まって、4時間くらい語り合い、そこからプロジェクトを生み出して形にするということを5年くらい経験しました。大勢が集り、プロジェクトをつくって連携し合って何かしていこうっていうことを、特に統制することなくやっていくっというまちづくりをやることが多かったです。これも自己組織化的だな思ってます。

二つ目は、短い単発のプロジェクトです。これも自己組織化的につくるのが好きですね。

一昨年、ティール組織の著者フレデリック・ラルー氏が来日した時も、敢えて一緒に仕事をしたことがない大企業の中堅どころとか、ティール組織的なものを探求している違う団体の人を15名くらい世話人にしました。その方が絶対分断が生まれずに広がるからという思いからそのような形をとりました。

特にリーダーとか責任者とかを置かずに、フレデリック・ラルー氏が来日したときのカンファレンスをどう作っていくのかという、統率型ではないプロジェクトのファシリテーションをしました。急に知らない人たちが集まって何か成し遂げるっていうのを自己組織化的に作るのも好きでやっています。

3つ目は、これ完全に自己組織化的とは言い難いかもしれないんですが、組織変革です。

基本の階層構造がある中でどれだけその階層構造のしがらみを手放しながら、自由自在に物事を進めるような組織に変革していくのか。そのような組織開発の仕事もしています。

今日は、3つ目の組織変革・組織開発の中で自己組織化的だったと感じている具体的事例をお話しようと思います。

「半年たったらこういう結果がでます」という研修プランは、引き受けられない

クライアントは関西の大手メーカーさんで、2,000人くらいの組織で、全国に120人程度の部門長がいる組織でした。ある時、その会社の人事部の若手担当者から連絡があってこのプロジェクトがスタートしました。

その担当者の話では、「最近、若手の研修に力入れていて、探究型でワークショップ形式で研修すると、すごく目が輝いて、熱意を持って、『これから仕事頑張ろう』というのですが、研修期間が終わって部署に戻るとどんどん心くじけていくというのです。部門長がトップダウンで旧来型のやり方をしているので、研修で盛り上がっているゆえに、そのショックの落ち方も尋常じゃないと。

こんな事を繰り返してたらこの会社に未来がない。

影響力の強い部門長クラスをなんとかしないと、組織は変わっていかないんじゃないかという問題意識を持っていました。それで僕のところに相談に来られたのです。

組織開発をやっていこうとしていた仲間と5人でチームを組み、この会社の研修を担当することになり、僕がメインファシリテーターとなりました。最初に先方にお伝えしたことが2つあります。

一つは「半年間関わらせていただきますが、半年後に何か起こるかはコミットできません。」ということです。

ファシリテーターというのは、みんなの知恵を出し合って、なかったものを生み出すのであって、時前にゴール設定をして、結果を当てにいくというアプローチとは全く違うやり方です。何か起こるか分からないのに「半年たったらこういう結果がでます。」という研修プランは、引き受けられません。

もう1つは「人事部だけで考えるプロセスでは、引き受けられません。」ということ。

人事部だけで考えた研修は、「また人事部がまた面倒くさそうな組織デザインをしようとする。」とか、「今忙しい時期なのに、なんでこんな研修を受けさせるんだ。」と思われがちです。経営的な視点と現場が必要と感じることが、ちゃんと合わさってないといけない。だから、研修に参加される部門長の皆さんと、どういう半年を過ごしていきたいか一緒に考えるプロセスがなく、人事部が全部設計するようなやり方では引き受けられません。

この2つをお伝えしてプロジェクトがスタートしました。

 

なぜ結果をコミットせずに、プロジェクトをスタートすることができたのか

人事の若手担当者は、30歳半ばくらいで、とても問題意識が高くて情熱的でした。「このままでは、本当にこの会社はダメになる!なんとかしたい!」という強い思いを持っていました。彼の上司である係長や課長も、この若手担当者の志にかなり惚れ込んでいて、こいつを男にしたいからやらせてあげたいという思いがありました。それでも、何も決まってなく企画書に書けないようなプロジェクトに予算がついたり、部門長120人を巻き込むのは難しいんじゃないかという不安は少なからずあったとは思います。

でも、経営層が「これはどういう目的で、どういうゴールか?」と聞いてきたとき、若手担当者は、「ぶっちゃけこれで何が生まれるかわからないです。だけどやらないとこの会社はダメになると思うんです。信じて任せてください。」と宣言し、会社としては異例の結果へのコミットなくしてスタートすることができたのです。

ストーリーテラー  嘉村賢州(かむらけんしゅう) 場づくりの専門集団NPO法人「場とつながりラボhome’s vi」代表理事、東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授、『ティール組織』(英治出版)解説者、コクリ!プロジェクト ディレクター(研究・実証実験)。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外を問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織における組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、今に至る。最近では自律的な組織進化を支援する可視化&対話促進ツール「Team Journey Supporter」を株式会社ガイアックス、英治出版株式会社と共同開発。2020年初夏にサービスをローンチした。

 

グラフィックレコーディング  関美穂子(せきみほこ) 鹿児島大学で文化人類学を専攻。旅行代理店、地域おこし協力隊を経て2017年に起業。現在は東京を拠点に、個人に対して一対一の対話とリアルタイムの視覚化を組み合わせた思考の整理サービス「可視カフェ」や、企業やイベントに対して議論や対話の場でのグラフィックレコーディング、ファシリテーショングラフィックの実践を行っている。https://docs.google.com/…/1hymqkXdDCIYdn8BpmT…/edit…

 

この記事を書いた人  伊原淳子(いはらあつこ) 自己組織development運営メンバー。茨城県在住。銀行勤務、モンテッソーリ教室講師を経て、2019年に、学び・組織・社会のパラダイムシフトを目指して活動している集合体「トオラス」に出会い、「自己組織化」についての学びを続けながら、地域のコミュニテイづくりも。2020年より手放す経営ラボラトリー研究員。「お互いのニーズやパーパスに耳をすませたとき、絶妙でより面白い未来像が現れる」そんな場作りを通して、一人ひとりが本来持つ力を解き放ち、共に創ることを喜び合えたら嬉しい。

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