リフレクションを学ぶ!リフレクションで学ぶ! Vol.1

上條晴夫さんインタビュー

〜東北福祉大学で、リフレクションを取り入れた授業を実践されている上條晴夫さんに、リフレクションについてお話をお聞きしました。

*話を聞いた人 伊原淳子(いはらあつこ) 

優秀な先生はリフレクションをしていた!

伊原
教員養成のお仕事でリフレクションを取り入れた授業を中心にされているということですが、いつ頃からされているのですか?
上條
取り入れてからは、もう10年以上ですね。オランダのフレット・コルトハーヘンという研究者の「教師教育学」という翻訳書があるんですが、その本がきっかけで、日本でもリフレクティブな学び方が広く知られるようになりました。
伊原
上條さんは、なぜリフレクションを取り入れ始めたのですか?
上條
私の教育的な専門性というのは「教育方法学」が長い専門でした。「教育方法学」というのは教育をするのに、新しい課題に沿った、あるいはより良い教育の方法を開発して、あるいは発掘して、それを広げていくというものです。何か新しい教育課題が出てきました、あるいは、何か新しい教育方法があります、ということになると、それを研究してシェアしてくみたいなことをずっとしていたんですね。そこが教育学のわりと、ホットなスポットだったんですよね。
ところが、その教育方法学ということ、つまり、何か新しいものを開発してそれを伝えていく、広げていくってやり方がどうも十分に機能しないって話になってきたんです。教育学的にそうなってきた。そこで、「教師研究」という時代がちょっとあるんですね。

教師研究をしたら、優秀な先生は、方法を教わったり学んだりして使うというよりも、リフレクションしているということがわかってきたんです。教師がリフレクションのようなこと、つまり自分のやってることメタ認知するようなことを学ばないと、教師としての影響力を行使しにくいんです。方法を開発して伝えれば済む話じゃなくて、教師自体の、ビジネスの方で言うと人材育成にあたるような方にシフトしていったんですね。
伊原
それで上條さんもリフレクションを取り入れるようになったのですね。
上條
そうですね。それで、最初の頃は、僕がリフレクションを学んで、リフレクションを教えるということをしていたんです。ところが、それが上手く行かなかったんです。

一方で、リフレクションの仕組みを組織なりなんなりに埋め込むようなことをやるとうまくいったんです。例えば、うちのゼミではうまくいくんです。うちのゼミはリフレクションをやるから。ゼミの文化なわけです。それは上手くいくんですね。

でもそれを持ち出して、こういう風にリフレクションをやってますよってことを外に持ち出して教えるとうまくいかない。方法だけ持ち出してもダメでで、やっぱり実際に繰り返してやらないとなかなかうまくいかないんです。学び方なのかな。マニュアルを読んだり、理論を手っ取り早く学んで、それを使うっていうやり方がどうもうまくいかないということが分かってきたんです。自分の実践から体得していくというやり方に変えていかないと難しいこともわかってきました。

モデルケースを学んでもうまくいかない!?

伊原
学んで使ってみることと、実践をしていくことは違うということですか?
上條
コーチングの事例がわかりやすいかもしれません。コーチングの連続講座をやらせてもらっています。2時間のワークショップの中、20分間は動画で学習(事前学習)します。残りの時間は、リフレクションをしているだけです。つまりその動画の中で提案されているコーチングの考えをもとに、自分はどんなコーチング的な振る舞い、実践をしているのかを語り合うのです。
伊原
コーチングを実際にそこで使ってみるのではなく、コーチングのやり方の動画を見て 自分の実践や考え方を語り合うのですね。
上條
学んで使ってみるという方は、「コーチングってこうやりますよ」「やってみください。」「上手くできましたね。いいですね。」そして、上手くできたんで、自分の現場に持ち出してやろうとする。モデルケースを学ぶので、それをそのまま使おうとしても、なかなかうまくいかないんですよね。

自分のやってる事の中の、例えばコーチング的な側面を自分で語ってみるって事が、そもそも、リフレクティブな学びなんですよ。
伊原
リフレクティブな学び方を取り入れるようになって、どんな変化があったんですか?
上條
そうですね。あるところまでは、「教えてもらった通りにやってみる」ことで上達できます。ところが、そこから先の悩みや迷いは、真似するだけでは解決しにくくなるんです。自分の実践をよく観察するとか、その中にある新しい要素を見直す、チェックするというのは弱くなるんですよね。
伊原
新しい要素をチェックするのが弱くなる?
上條
うまくできているかどうかに目が行くわけですよ。例えば、田原真人さんの理論を学ぶと想定したときに、田原さんが言ったように自分が動けてるかどうかというところに、目が行くわけです。普通の学び方ってそうなることが多い。いろんないい考えが持ち出されると、「私って、それ出来ているのかしら?」「出来ていますか?」と田原さんに聞くわけです。その理論の世界に自分が合ってるかどうかを見に行く。聴きに行く。

でも、リフレクションでは自分がその実感を持てたかどうかを確かめるんです。自分の実感に触れることが必要になってくるんです。表づらな言葉をやり取りするのではなくて、自分が体験したことや、実践したことの、実感を取り出して語ることで、無自覚だった気づきを取り出し、実践知にして、それを使って次のアクションにつなげていくことができます。

リフレクションに向いている記憶の仕方、語り方

伊原
私が実際に上條さんのリフレクティブな学びの場に参加させていただいたとき、学校の先生たちの学級通信がテーマでした。

ある先生が、学級通信をどうやって発行しているのか、学校での子どもたちとのやりとりを具体的に話をしてくれたときは、リアルにそのシーンまでイメージできて、自分は学級通信の発行など経験したことがないのですが、

「ああ、なるほど、学級通信を発行するときには、そういうことが大事なんだな」っていう 自分の実感にも近い感覚が得られました。とても印象深かったです。
上條
それはリフレクションの特徴の一つですね。リフレクションが上手にやれている方というのはそのシーンを追体験できるように、映画のように語るというか、記憶するっていうか、そこに向けてトレーニングはするわけですね。
伊原
語るトレーニングですか?
上條
頭の中がムービーのように録画されればいいわけです。それを取り出し、語るトレーニング。語り合うというのをやるんです。聞いている方は、追体験をするような聞き方ができると、今度はそれが自分の次の実践につながっていきます。

これは、エピソード的記憶の仕方、語り方なんですけれど、もう一方で規則的に記憶をするという方法があります。「何月何日何があった」とか、「こういう法則があるよ」という記憶の仕方です。リフレクションは、規則的というよりもエピソード的な記憶と語り方のモードを選ぶんです。
伊原
それはかなり具体的なコツのように感じたんですが、記憶の仕方、語り方があるんですね。エピソード的に記憶するというのは訓練すればできるようになるものなんですか?
上條
僕のここ数年の研究、実践的な研究であればできますね。教育学の方で研究があって割と若い未熟な先生とベテランの優秀な先生の比較研究をしたところ、エピソード的な記憶があるなしっていうのもはっきり出てきたんです。
伊原
ベテランの先生の方がある?
上條
そうです。囲碁とか将棋のときに、「盤面を記憶してる」という言い方をする場合があるんですね。それはシーンとして覚えますね。アスリートもそうですし、音楽をやる人もそうですね。

東北福祉大学はスポーツの盛んな大学なんです。大学院の学生で、東北一番のチャンピオンの学生に「どんな風にやるの?」と聞くと、「リフレクションしてます」と。
伊原
今お話を聞いていて、思い出したんですが、私の息子がゲームのことを夢中になって語るんです。どのシーンで、敵がどんな武器を使って、自分はどうやってそれをかわして、前進したのかを具体的に語っています。それって実は、エピソード記憶の訓練になってたりするのかなと思って聞いていました。
上條
エピソード記憶を次にどういう風に使うかという、使い方があるんです。リフレクションが大事だということは、割と20世紀の終わり頃から強く言われるようになってきたんですが、それをどう学ぶかというところが20年間、もっとかな、研究がなかなか進まなかったのですが、

オランダとフレッド・コルトハーヘンがALACTモデルというのを作り出したんです。 ALACTモデルでは、まずシーンの記憶の中から、気が付いたことをたくさん取り出して、その中で自分として一番価値のあるものを抽出し、構造化をして、次のアクションに結びつけます。これは、経験学習サイクルの新しいバージョンです。通常使われているコルブの経験学習モデルは、どちらかというと理論モデルなんですよ。

ALACTモデルというのは実際の専門職の方が、どういう風にリフレクションしているのかを研究して作った、コルブの経験学習モデルのニューバージョンなんです。
伊原
シーンの記憶の中から気が付いたことを取り出して、その中から大切そうなものとか、意味あるものを選んでいくというのは具体的で、とてもイメージしやすいですね。 実際にやれそうな気がします。それを繰り返し経験していると、エピソード記憶をすることが、自然と習慣になっていくような気もします。
上條
プロは、そこがやれてないと自分の過去の経験が使えないわけですよ。

Vol.2「なぜ真似するだけではうまくいかないの?」へ続く

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